「スピノザの哲学が心に響く一冊」(1621号)

読書の秋。今日は優秀な理系大学出身ではなく医師の書いた小説のご紹介です。
医師であり小説家の夏川草介氏。大阪府出身で信州大学医学部を卒業され、医師として勤務するかたわら、2009年に『神様のカルテ』で小説家デビューを果たしました。この『神様のカルテ』は2011年に映画化され、多くの人々に感動を与えました。
最新作である『スピノザの診察室』では、哲学者スピノザの思想を通じて、現代社会で人々が抱える悩みや葛藤が描かれています。物語の舞台は現代の診察室であり、医師と患者たちの対話が中心に進行していきます。主人公の医師は、※スピノザの哲学を用いて、患者たちが直面する心の問題や人生の困難に向き合っていきます。
この作品では、スピノザの「神即自然」という思想や、人間の感情や欲望の本質に対する洞察が織り交ぜられ、患者たちが自分自身の苦しみと向き合う姿が鮮明に描かれています。また、医療現場での「心と体の治療」をテーマにし、医師が患者にどのように寄り添うべきか、現代医療の課題にも深く触れています。
医療と哲学が交錯する本作は、心の癒しや生き方のヒントを提供する深い内容の小説です。スピノザの哲学を通して、人間の存在の意味や他者との関係についても考えさせられる一冊となっています。愛犬を亡くし、傷心中の私にとって心が癒される一冊でした。
※スピノザ:17世紀オランダの哲学者「神即自然」という思想を唱え、理性と自由を重んじた人物です。